創造性は暗闇から始まる、人生がそうであるように。
ジュリア・キャメロン(1992)
生活リズムは規則正しいに越したことはないけど、深夜に本を読んだり、考え事をする時間には何とも言えない魅力がある。そうした夜の魅力の理由の一つは、おそらく体内のリズムに由来します。身体には「サーカディアン・リズム(概日リズム)」と呼ばれる24時間周期のリズムがありますが、夜が深まるにつれて、覚醒を促すホルモンであるセロトニンが抑制されて、リラックス効果のあるメラトニンの分泌量が増えていく。夜に落ち着いた気分で過ごしやすいのは、体内のリズムのおかげでもあるわけです。
サーカディアン・リズムは、光によって、外の環境の周期との同調が行われる。眼の網膜にある「メラノプシン」が強い光を受けると、その刺激が脳の視交叉上核(SCN)にある体内の中枢時計へと伝わり、体が覚醒のモードに入る。だから僕は朝起きたら、体に自然と活動を促すためによく窓の外の空をぼーっと眺めます。
ヒトは強い光の環境下ではより覚醒した状態となり、メラトニンの分泌も抑制されます。覚醒状態の方が生産性は高まります、オフィスなどが一般に明るいのはそのためです。スーパーやコンビニの照明が明るいのも、その方が購買意欲が刺激されるからです。ただし、近年では、「暗さ」が持つ可能性が少しずつ注目され始めています。単純な知的活動は明るい環境下の方が成績が良くなる傾向がありますが、ヒラメキを要するある種の創造的な課題の場合では「暗い」環境の方が成績が良くなるようです[2]。
その理由は、リラックスしている時の方が、想い出すことや連想といったより探索的な知的活動が活性化するためだと考えられています。暗い環境では意識がより内側の世界へと向かう傾向がある、暗さが創造性を促すのはそうした理由によるのでしょう。バーやカフェなどで暗い照明が好まれるのも、リラックスした柔軟な思考がコミュニケーションにとっては重要だからなのかもしれません。ただし、暗い環境だと社会的制約からも自由になって、ヒトはルールを破りやすくなる傾向もあるようです[3]。光環境は人の振る舞い方にも影響を与えるのですね。
ですから、どうせなら夜更かしをするのなら、部屋の照明を少し暗くした方が夜の魅力を味わうことが出来るのかもしれません。ただし、サーカディアン・リズムの乱れは体には良くありませんので、あくまで時々、贅沢として。
◇参考文献
[1] J. Cameron (1992) The artists's way: A spiritual path to higher creativity. New York, NY: Penguin Group.
[2] A. Steidle & L. Werth (2013) Freedom from constraints: Darkness and dim illumination promote creativity. Journal of Environmental Psychology, 35, 67-80.
[3] C.-B. Zhang, V.K. Bohns & F. Gino (2010) Good lamps are the best police: Darkness increase dishonesty and self-interested behavior. Psychological Science, 21(3), 311-314.
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